小人閑居して不善を為す chapter3

一介のプレイヤーからハイスコアラー、そしてゲームセンターの中の人を経てアーケードゲームと関わること40年以上、その普通とはかなり異なるゲーマー人生を回顧するべく記事を綴っております。

ゲームセンター回顧録 セガロケーション撤退に思う その4

今度は「受ける」GENDA側の考察です。

 

市井の方よりも多少は業界に対するアンテナが高いと思われる私でも、今回の株式譲渡まで「GENDA」という社名は聞いたことがありませんでした。創業は2018年とのことで、まだ2年程度では聞き覚えがないのも無理のないことです。これまで業務用ゲーム機のレンタルやオンラインクレーンゲーム事業、米国への子供向け遊戯施設展開といった事業を手掛けていたようですが、今回の買収で一気に企業規模を大きくすることとなりました。

 

経営陣は、イオンファンタジー企業価値を大きく向上させた実績のある創業者兼会長の片岡氏と、金融業界で辣腕を発揮してきた共同創業者兼社長の申氏の二人が両輪となっているようです。

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(月間アミューズメントジャーナル2020年11月号表紙)

社長の申氏は業界紙である「月間アミューズメントジャーナル」の表紙を飾りました。通常はゲーム機の写真が表紙を飾ることが多い業界紙において、アミューズメント業界関係者とは思えないその容姿が異彩を放っていました。

 

気になるのは、バックが投資ファンドであるということ。ファンドの出資先として設立された経緯が窺えます。セガエンタテイメントの買収に動いたのは、ファンドとして勝算があってのことなのでしょう。

そのシナリオは、イオンファンタジー時価総額を約5倍に引き上げた現会長の手腕をこちらでも発揮してもらい、ひいては企業価値の向上→株式上場と見て間違いないと思います。そのため今後時間の経過と共に、これまでのセガの運営とは異なる形で様々な施策が打ち出されてくると予想されます。

 

当然それはプラスな面もあります。

例えばセガのロケーションにおいては永らくコナミ製品がほぼ導入されてきませんでしたが、表向きにセガは経営から手を引いていることから今後GENDASEGA店舗にコナミ製品が積極的に導入される可能性は充分あり得ます。コナミが製品を販売をしてくれるのかどうかは別の話ですが…

 

しかし以下のようなデメリットを私は危惧しています。

 

まずは先に述べている「バックが投資ファンド」であるということ。

ファンドが描くシナリオ通りに企業価値が向上すれば良いのですが、ビジネスモデルとして目新しいものはなく、しかも全体が斜陽であるゲームセンター業界において、ファンドの目論見通りに物事が進まない可能性は充分に考えられます。

その際「ファンドが資金を引き揚げて事業を再度別の業者へ売却する」という事態が起こり得る訳で、価値の低下した事業の買い手が付かなければ清算、という最悪のシナリオが全く無いとは言い切れません。

 

そしてもう一つが「セガブランドを失うことによる影響」です。

これまでは「1部上場企業」としてのセガもしくは直接の子会社という看板があったため、その信用や資金力、運営能力を踏まえて店舗の出店が可能でした。

特に最近はゲームセンター単独出店ではなかなか収益性が上がらないため、集客力が高いショッピングセンターインストアに飲食提供等も含めた複合型の店舗を展開する例が増加しており、その出店に当たっては予めゲームセンター運営会社がプロポーザルを行い出店企業が選定される場合が多いようです。

www.sega-entertainment.jp

bandainamco-am.co.jp

ナムコは元々ショッピングセンター内店舗運営が強く、現在の施設一覧を見てもインストア型店舗が多数を占めている反面、都市型やロードサイド店舗主体だったセガはショッピングセンターへの出店は後発で、近年はインストア型店舗を徐々に増やしてはいるもののその割合はナムコに比べると明らかに低くなっています。

店舗数を絞っている最中で無闇矢鱈と出店出来ないこと、またナムコ等インストア主体で運営している業者と比較して運営ノウハウや新規出店案件に乏しいという事情はあると思われますが、それでもプロポーザルを行う際にセガのブランドが与える影響は決して小さくはないと思います。

 

ここからセガのブランドが外れるとどうなるのか。

企業名にセガの文字を残しているとは言え、資本的にほぼ無関係になったことが周知されており、上場企業の後ろ盾による信用力、コンテンツメーカーが持つ商品力や企画力を失った企業がこれまでと同様に新規出店を継続できるのかは疑問が残ります。

そこで現会長の手腕に期待が掛かる訳ですが、イオングループ関係会社としてグループのショッピングセンターに国内外を含めて優先的に出店可能なイオンファンタジーと、企業名にセガの名称が含まれるものの実質はファンドがバックのベンチャー企業では明らかに土俵が異なるため、恐らく一筋縄では行かないのではないでしょうか。

  

jamma.or.jp

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(社団法人 日本アミューズメントマシン工業協会 設立20周年記念誌 1990年台-3より)

かつてアーケードゲーム業界は、「不況知らず」と呼ばれ、実際に不況期においても市場を拡大してきました。それは定期的にヒット商品を市場に送り込んできた開発者、そしてコツコツと日銭を稼ぐゲームセンター運営関係者の不断の努力の賜物だと思います。

しかしアーケードゲームが持っていた商品的アドバンテージは徐々に失われ、またゲームセンターの稼得能力もコロナ禍で大きく減衰しているタイミングでの「セガのロケーション撤退」は、いよいよ業界が完全に縮小期へ突入するトリガーとなってしまうのでしょうか。

GENDA会長の片岡氏はtwitterで上記の発言をされています。先行きは決して安泰ではないと思いますが、元OBとして今後店舗、会社、そして業界を如何に活性化させていくのか興味深く見守りたいと思っています。